秋の入り口

ふと気づくと、赤とんぼが飛んでいる。もうすっかり夏が終わったのだと気付かされる。
飛んでいるとんぼに8枚の羽があった。よく見ると前に一匹、前のとんぼの尾をかじりながら後ろに一匹くっついている。今は繁殖期なのだ。空を見上げると無数の雄と雌のつがいが同じ方角を目指して、空に線を描くように飛んでいる。きっとこれからみんなで産卵場所を探しに行くところなのだろう。
つがいの中には飛び方がぎこちないのもいる。ジグザグとした動きに息の合わない二人三脚を連想させられ、人間の世界と似たものを感じさせられる。

赤とんぼの群れを眺めていると、その本流から外れて飛んでいる一匹のとんぼを見つけた。本流を仰ぎ見るように低空で、空間に固定されたように飛んでは、機敏に位置を変え、また固定されたように同位置上に飛び続けている。流れから外れて迷い込んでしまったのだろうか。煙草の煙にも気に留めない。

しばらく観ていると、突然上の本流の方へ素早く移動していった。その先には、流れに逆らって優雅に飛ぶ別のとんぼが一匹。そのとんぼの後を追うようにして建物の影に消えていった。
彼は彼女を射止めることができたのだろうか。今日は嵐の後の秋の入り口。

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