『絵を描くのは夕方の西日が良い』とオールドマスターの誰かが言った。バロックの画家だっただろうか。日が傾き、差し込んでくる光は絵の表面に金色のベールを掛ける。
画面のものはその外の部屋と交わり、部屋にあるものは外の世界と交わり、ここはどこであるものなのか判らなくさせられる。
ふと気づくと、赤とんぼが飛んでいる。もうすっかり夏が終わったのだと気付かされる。
飛んでいるとんぼに8枚の羽があった。よく見ると前に一匹、前のとんぼの尾をかじりながら後ろに一匹くっついている。今は繁殖期なのだ。空を見上げると無数の雄と雌のつがいが同じ方角を目指して、空に線を描くように飛んでいる。きっとこれからみんなで産卵場所を探しに行くところなのだろう。
過去の記憶を遡ると、イヤな思い出は論理的に後悔し、その最終的には行き場を失くして今ある体に響いて、力を失くす。その出口はあるが、人によっては見つけられない。大抵の人はそうなのかもしれない。
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